ジューン・ジョーカー

梅雨だ梅雨だと言っていたら

あと数日で夏の月がやってきます。

 

裏路地に咲くアジサイはとうに露をまとって

朝日をキラキラと反射していた。

 

ジメジメした熱気が髪にまとわりついて鬱陶しいね。気分が晴れない日が続いて

全てが嫌いになりそうだ。

家で聞く雨音はとても好きで落ち着くのに、傘へとやって来る雨の嫌なことといったらこの上ない。

いっその事、街中水に埋もれてしまえばいい。

ビルの海藻がゆらゆら揺れて、車のサンゴ石と飛行機の亀。

息の出来ない街。酸素は口移しでしか貰えませんか。

私、熱帯魚に似てるとよく言われてた。暖かい海でなきゃ生きていけないよね。

 

この街はとても冷たくて、私にはとても泳ぎづらいんだ。暖かい方へ、暖かい方へと探して行っても

みんな、みんな、時間が経つと冷えてしまう。

最初だけだよ、暖かいのは。

悲しいね。そのうち水温に適応出来ずに死んでいく。

 

空が落とした水たまりがやがて広がって

この街が海になったら、酸素ボンベを持ち出して独り占めするのもいいけど。

息をせずに静かに還るのも悪くないと思います。

 

つまりは、雨。

好きだけど、嫌いです。

 

ミステリ・エスケープ

珍しく肌寒い夜です。
休みの次の日は、仕事に行きたくないもので。
だからといって家に帰ると、部屋はいつも暗くて、結局1人なのも嫌のかなと思ったりします。

スマホにしてから、ケータイのアプリゲームをやってはアンインストールの繰り返しで
長続きするものはほとんどなかった。
よくあるロープレなんかも敵が倒せないとつまんなくなっちゃってスグやらなくなってしまう、私の良くないとこ。

でも昔から脱出ゲームや謎解きゲームは好きで、アプリをダウンロードしてはクリアしてを繰り返してる。
今日も2つクリアした。

 

自分のことをあまり話してくれない人っているじゃん。
そういう人も謎解きゲームと同じだなと思う。秘密主義をクリアしたくなる。

例えば自分の生い立ちや好きなもの、何してたのか。何考えてるのか。言葉にしてくれなくて困る人。


その人がよく食べてるもの、癖、表情、一つ一つヒントを手に入れる。
とても時間がかかることだ。
その人の情報がゼロからのゲーム。スタートである。

 

脱出ゲームだと一つの謎を解くのにいくつかのヒントと道具を使う。
それととても似ている。
「うーん、このステージの扉をあけるには。。」
クッキーとドーナツを渡したらドーナツだけ食べてるなぁ。
この人は硬いものより柔らかい食べ物が好きなのか。いつも飲み物これ飲んでるな、これ好きなんだなぁ。
赤いケータイ、黄色い小銭入れ
この色のもの身の回りに多いな。この色が好きなんだ。
私が黙ってると様子を伺ってくる、結構気にしいなんだろうな。
これは嫌いなのかも、気をつけよ。。

そうやって一つずつ。

 

どストレートの私だから、凄くもどかしいんだけど、退屈しなくて、楽しい。
いくつかのヒントが集まって、ようやく第一段階クリアする。
何段階まであるんだろう。きっと私はこの人のまだ1割くらいしか知らないんだ。
長いゲームになりそう。でも、絶対楽しい。

そうやって少しずつ理解していく、人間は言葉一つで表せるように単純ではない。

興味のある人は、みんなどこか謎が多い。
だから、知りたくなる。
私もそう思われてるかもしれないけど、意外とわかりやすい人間だと自分では思ってる。
すぐ顔に出るし。

だから謎解きゲームってやめられないのよね、一種の達成感。
人間は一生解けない謎なんだけど、だからずっと飽きないでいられるよ。

 

いつか最後の扉を開けることが出来たら
それは、最期の扉なのだろうか。

全て知ってしまうことは、きっと罪である。
どっかの誰かが、知ることは罪だと言ってたようなきがする。

知らなくていいことかもしれなくても、好きなものならどんな事でも知っていたいよ。

 

今日何食べた?どんな夢みた?占いは何位だった?
子供の頃は何して遊んでた?オバケは信じる?犬派?猫派?最近悪いことした?

どんな些細なことでもいい。知ることが罪なら、無関心はもっと罪だろ。

 

まだ、ゲームはこれでも始まったばっかり。
クリアするのは来世かもしれないね。

ショート・タイム

これは短いお話です。

 

かつて兎は月にいると言われていた。
金色に染まった満月はいつも夜を朧気に照らし、私たちの頭上に居る。

 

兎を見ると追いかけたい衝動にかられる、これはきっと本能なんだ、アリスが兎を追いかけた理由も分かるでしょう?と私が言うと
「きっと気のせいだよ。」と貴方は三日月のように笑った。

月をいつまでも追いかける太陽も同じく

そしていつまでも追いつかない。
ずっと追いかけてばかりいる。
似ているんだ。まるで兎の生まれ変わりなのかと疑うほどに。
まあるい目、白い毛、力強くて細い足。

 

私はいつまでも追いつけないのだろうか、とベッドの片隅で悶々とすると、貴方は決まって寝てしまう。
兎と亀の兎は、寝てる間に亀に抜かされちゃうんだよ。そう思いながら丸まっている隣の貴方の白い髪を撫で、私はただ穏やに眠る長い睫毛を見つめていた。
真っ白なシーツは月を覆う雲母のように寄せては、息をする1匹を優しく包んでいる。

 

誰も居ない花園、そよぐ草に囲まれて私は立っていた。
遠くで鐘が鳴っている。
ザワつく草むらから覗く白い耳が
おいで、と私を呼ぶ。
待って、行かないで。背伸びして慣れないヒールを履いてたせいで上手く走れない。捕まえなくちゃ。
私を置いて行かないで。そう言って花たちをかき分けて流れる雲をなぞった。
白い耳はどんどん遠くへ行ってしまう。
随分走ったあたりで、開けた場所へ出てしまった。足が痛い。お気に入りのスカートもボロボロになった。
兎の姿が見えなくなった。見失ってしまったようだ。
するとよく知っている声が「もう、行かなくちゃ。」と耳元で聞こえた。風の音かと思うほど寂しい音がした。
どうしていつも行ってしまうの?
暗転する視界。

 

そこで夢を見ていたことに気がつけば、目が覚めると貴方は出掛けていた。
やっぱり、また追いつけなかった。

シーツの上の温度だけが残され、「行かなくちゃ。」
と夢心地の中言われた言葉を思い出した。
指に絡まり残った白い毛が赤だったら良かった。

にんじんでも、美味しい草でも、なんだってあげるものはやってあげたいと思うのに。
いつもどこかへ行ってしまう。

 

今夜は満月だといいな、そう思いながら1日を終えて一人帰路につく。
ビルとビルの隙間から薄明かりがこぼれて、
見れば今日は満月だった。
その黄色く実る円の中に、小さな兎が見えた。

月にいる貴方はロケットでもとうに追いつけない距離にいるけど、何億光年離れた所でも月明かりは届いている。

アポロが月に着陸したのが嘘かほんとかはどうでも良かった。
いつも見られるのに
遥かに遠い。


やっぱり兎なんでしょう?と電話越しに言えば
貴方は「兎は寂しいと死んじゃうからね」と夕凪のような声で呟いた。
丸い目を細めて笑う姿がぼんやり浮かんで、
今夜の満月も静かに揺らいだ気がした。

 

兎、兎、なに見て跳ねる。

寂しさで死んでしまうのは自分の方だよ。
とぽつり言えることができたら。
少しだけ追いつけるのだろうか。

三日月になったら戻ってくるのかい。
ぴょん、とどこかへ行く前に。

 

デザリング・デザイン

桜を散らす霖がふりました。

待っていた時間は開けたはずなのに、見れば代わりに散ったピンクが悲しく濡れています。

 

早いものでもう四月もなかば。

心待ちにしていたものはすぐに過ぎて、また同じく繰り返される。

 

やっとの思いで会えたはずなのに、時間は経つのが早くて、すぐにお別れの時間になってしまうようなあの感じにとても良く似ているね。桜は。

増える吸殻を数えて今日も終わりました。

 

このしんみりした夜はどうしてかあてもなく暗がりを歩きたくなってしまって。隣に歩く人など居ないのに、それを知ってかまた、しんみりして。

視界を塞ぐ。   暗転。

 

 

一度目は偶然 二度目は奇跡 三度目は運命。

 

それが本当なら何度目の運命を繋いでいるのだろう。

今はその運命のまっただ中なのかもしれない。

 

メリーゴーランドが3周したあたりで、あのフレーズ。

「また春に会いましょう」

 

ああ、今日も言えない言葉をコーヒーと一緒に飲み込んでしまった。と、後悔したよ。

いつもそうなんだ。私はとても大切なことを忘れる。あの日どの服を着てたか、何時に起きたか、何を食べたのかなんて、どーでもいいことは覚えてるくせに。記憶力は無駄にいい、だから余計に過敏なんだ。

 

いつも、大事なことが言えないまま、出来ないまま。

 

応えてくれなくてもいい、見返りもいらない。

というのは綺麗事なんだ。

きっととても欲張りで、プレイルームのおもちゃを独り占めして遊んでたあの頃と何も変わっていなかった。

 

煩悩を捨てた仏陀は言ったさ。

「例え『これは自分のものだ』このように思っても死ねば失う。『自分のもの』という幻想に負けてはいけない」と。

 

執着を捨てた時に初めてそのものの意味が分かると。そんな事言われてもさ。

 

簡単に出来たら仏になってるわって話。

 

ただ、春の夜の夢の如し。

王子様のキスでいつまでも眠りたかった。

また、一人で夢を見るんだろう。

 

ブロッサム・ブログパーツ

花びらの落し物でたくさんの道を今日も踏んずけて歩いた。

少しだけ肌寒い気がして寂しい夜です。

 

休みばかりで夜更かしすると、いつの間にかやって来る。

遠退いていく意識の中で、やさしい音が鼓膜を震わせて。次第に、暗がりへ落ちていく感覚さえも失せていくのに、その音だけは決して途絶えることはなかった。

 

遠い夢の如く、春の不思議な感覚は、どうしてなのでしょう。

誰もかもがうつつをぬかしている。

 

ああ、そうか、きっとこの不思議な日々が過ぎるとすぐに長雨に悩まされ

あっという間に緑深い草の匂いの季節に変わるのだなぁ。と。

五感を刺激する全ての自然のアプローチが、今まさにここにある。

私は季節に惑わされている。

 

春だから。と理由をつけているのです。

 

植物って、人間のこと

どう思っているんだろう。

とても勝手だと思うか、そうだろうな。

自分が綺麗な時だけ花見だ夜桜だと騒がれて

裸になれば目にも止めてくれないじゃんって。

ごめんね、そうじゃないよ。ただきっとね人間は、繊細で綺麗なものが好きなんだ。

咲かない花に価値がない訳じゃないよ。ちゃんとね、咲くまでの過程も知ってるよ。

だからとても好きなんだと思うよ。

 

人も同じようなもんだから。

植物の吐いた息を人が吸っている。

年輪の数だけ歳をとる。

苦労したぶん美しい。

枯れ木になったら死ぬ。

何も変わらない。

 

 

アンハッピー・バースデー

気づいたらピンク色になっていて、

気づいたら一つ歳をとっていました。

ごきげんよう

 

誕生日が来る度に

あぁ、こうしてまた死に近づいていくんだな

という不安と

もうこんなに生きてるんだな

という想いが交差します。

一年前の自分は何してたっけな、とか。

増えていくローソクを消す度、変な気分になります。

 

毎日誕生日みたいに、生きてることを祝ってもらえるならさ、

桜の季節に生まれた性分なもので、刹那に散る花に重ねるくらいのネガティブ野郎を何とか出来るんじゃないかな。

 

おめでとうの 五文字を 一番言ってほしい人に言ってもらえなかった。

まあ、いいんだ。

どうせまた言ってくれるチャンスは1年後。

生きてる限り何回でもチャンスがあるから許してあげる。

 

ピンポイントで隕石でも落ちない限りなかなか終わりはこないもんです。

 

春霞。

 

やわらかい光がさしている。

東風が運んだ卵は鼻をくすぐってむず痒い。

花曇りのする空をかき分けて歩く。

 

一場の春夢 

ということわざが好きで。

人の栄枯盛衰は、春の夜の夢のように極めて儚いものという意味。

日本人って本当に美しい言葉を作るね。

昔の人は短歌や俳句で想いを綴っていたと言うけれど

Twitterやラインでは出来ない良さがある。

移りゆく季節や見るものに感じる気持ちを一番ストレートにしたのが詠なのでしょう。

 

ここで一句。

 

春霖に 香草燻らし 君を待つ

 

春霖とは

仲春から晩春にかけて降る長雨のこと。霖とは長雨。その雨によって春の訪れに草木が成長し、花の蕾も膨らむという意味です。

 

春の長い雨が降っているように、会えない時間が続くけれど、その間あなたへの想いを膨らませながら、雨が止むまでタバコを吸って待っています。

という感じ。

 

いい季節です。

 

グレゴリオ・グレーテル

何の変哲もない1日が過ぎていきました。

厚底。履いていたから、今日は人混みでも眺めがよかったよ。

 

お気に入りの人形をサブバッグから下げて歩いてたもんだから

ちょいと変な人だったと思う。

電車で向かいのサラリーマンがヘンテコな機械でも見るかのように覗き込んできたんですもの。

慣れっ子だけどね。

 

人の目が怖くて、少しの音でも敏感になって、見えないものが見えて、見えるものが見えなくて。

幼い当時の私はとても不便だったんだけど。

今はそうでもない。

 

そんな応えはとうにわかっている。

正しさが、何を土台にして成り立つのかを。

 

今がまだ未来だった頃。

ひとしきり、理解したよ。

 

それから解放されることが、仮に自由だとしよう。でも無理だ。

それは鳥籠の中で生きていくしか方法がない訳ではなく。

鳥籠の中の鳥が生き生きしていることに対して誰も違和感を感じないのと同じで、

可哀想だと思う人がいるけど、それが普通であったから誰も干渉しないのだと私は思う。

わざわざ鳥を飼っては逃がしている人など見たこともないし。

矛盾を抱えていると思うのはきっと私だけだ。

 

可哀想だと思うのなら、端から檻に入れるなよってね。

壊れ物を扱うような、触れ方をされるのは心地いいものではないけれど

初めから四肢を縛られていると勘違いしていただけ。

だからいつまでも飛べない。

もう鳥籠の鍵はとっくに外れてる筈なのに

自らを縛っていただけであった。と。

 

そんなことはもうどうでもいい話さ。

 

未来のためにパンをちぎって歩いたって

鳥に食べられて帰り道が分からなくなるし

考えても仕方の無いことなら

わざわざ帰ることを考えるより

そのパンを今美味しく食べた方が

ずっと今が幸せでいられる気がする。

お菓子のおうちは捨てがたいんだけどなあ。

 

悪い魔女につかまるくらいなら

手を繋いで暗い森を歩いた方がずっと楽しいかもね。